フッ化物に関するQ&A
■Q1:フッ素とはどんなものですか。「フッ素」と「フッ化物」の違いは。
■Q2:フッ化物はどのようにしてむし歯を予防するのですか。
■Q3:フッ化物は劇薬だと聞きましたが、使用しても問題はありませんか。
■Q4:お茶にはフッ化物が多いと聞きました。お茶を利用してむし歯予防ができませんか。
■Q5:歯みがきや甘味制限などの基本となる努力をしないで、薬であるフッ化物に安易に頼るのは正しいむし歯予防といえないのではないですか。
■Q6:フッ化物は、本当に安全ですか。
■Q7:洗口液を誤って飲み込んだ場合、どうしたらよいのでしょうか。
■Q8:フッ化物の急性中毒量について、体重1kgあたりフッ化物2mgと5mgの根拠となるデータはどんなものですか。
■Q9:フッ化物洗口をしてはいけない病気がありますか。
■Q10:フッ化物が癌の原因になると聞きましたが、本当ですか。
■Q11:フッ化物洗口で歯に色が着くことはありませんか。
■Q12:フッ化物洗口の必要性があるならば、学校等の集団ではなく家庭の責任において自主的に実施すればよいのではないですか。
■Q13:WHO(世界保健機関)は、就学前の子どもはフッ化物洗口をしてはいけないと言っているのですか。
■Q14:フッ化物利用に反対論があります。科学的にはどのように考えられますか。
■Q15:フッ化物応用について学会でも賛否両論があるあいだは、「疑わしきは使用せず」の原則で実施を見合わせるべきである、という意見がありますが。
■Q1:フッ素とはどんなものですか。「フッ素」と「フッ化物」の違いは。
■A:フッ素(元素記号はF)は、自然のなかに広く存在している元素の一つで、人体、地中、海水、河川水、植物、動物などにすべてに微量ながら含まれています。
「フッ素」は元素名であり、水や食品中無機のフッ素のことを「フッ化物」といいます。
フッ素は食品にも含まれていて、私たちは必須栄養素として日頃普通に食べたり飲んだりしています。
例えば、お茶、紅茶の葉には100~500ppm(※)含まれており、実際にお茶としてお湯を入れて飲む場合には、0.1~1ppmくらいの濃度になっています。しかし、通常食物から摂るフッ素の量では、むし歯を抑えるには不足していますので、フッ化物塗布や洗口、フッ化物入り歯磨き剤の形で利用しています。
※ ppm(ピーピーエム)とは百万分の1の割合を表す単位。例えば、ある物質1kg中に1mgのフッ素が含まれている場合、その物質のフッ素濃度は1ppmとなります。
■Q2:フッ化物はどのようにしてむし歯を予防するのですか。
■A:フッ化物は次のような作用でむし歯を予防します。
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エナメル質結晶の安定化作用
歯の表面はエナメル質という水晶よりも硬い組織で覆われていますが、その構造はハイドロキシアパタイトという燐酸カルシウムの結晶です。結晶構造に欠陥部分があるとフッ化物はエナメル質に作用してその欠陥部分を修復したり、酸に溶けにくいフルオロアパタイトというフッ素元素を含む結晶を生成します。結果的にエナメル質の酸に対する抵抗性を増強し、むし歯を予防します。
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再石灰化促進作用
むし歯はエナメル質に付着したプラーク(歯垢)の中でつくられた酸が、エナメル質中のカルシウムやリンを溶かすことで始まります。この現象を脱灰といいます。初期の脱灰はエナメル質の表層より少し下から始まるため、ある時期までは表層が残り、一見すると正常であり、ただ白い斑点が生じたように見えます。ところが、その下では脱灰が進行して空洞が大きくなり、食事などの外圧によって最表層が陥没して穴があくのです。こうなると口腔細菌の感染が起こり立派にむし歯です。しかし、表層のエナメル質が残っているまだ感染していない初期の脱灰の状態では、カルシウムイオンやリン酸イオンが豊富な唾液などが作用して、脱灰によるカルシウムイオンやリン酸イオンを元の状態にもどす作用が期待できます。この現象を再石灰化といいますが、歯の周囲の唾液などに存在しているフッ化物は、この再石灰化を促進する作用をもっているのです。
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プラーク細菌に対する抗菌作用
フッ化物は、プラーク中に生息しているむし歯の原因菌の酵素の働きを阻害したり、酸を産生する能力を抑制してむし歯を予防します。
■Q3:フッ化物は劇薬だと聞きましたが、使用しても問題はありませんか?
■A:フッ化物に限らず(塩や砂糖など)、物質は多く取りすぎると体に害があります。適量を摂取することが大切です。
フッ化物洗口に使用する場合、希釈する前の濃度の高い粉末(ミラノールなど)は、薬事法上劇薬に指定されていますが、処方に従い水に溶かせば濃度が1%以下となり普通薬となります。たとえば、コーヒーや栄養ドリンクなど多くの食品に含有されているカフェインも、精製された結晶は劇薬とされていますが、コーヒーは劇薬ではありません。フッ化物塗布では濃度の高い薬剤を用いますが、歯科医師や、その指示を受けた歯科衛生士が実施するため問題はありません。
■Q4:お茶にはフッ化物が多いと聞きました。お茶を利用してむし歯予防ができませんか。
■A:フッ化物洗口は、歯の表面に作用し、歯質を強くする予防方法なので、フッ化物(フッ素)の濃度が重要です。
お茶には比較的多くのフッ化物(フッ素)が含まれていますが、フッ化物洗口剤よりも濃度が低いので、むし歯予防効果を十分に期待することができません。
■Q5:歯みがきや甘味制限などの基本となる努力をしないで、薬であるフッ化物に安易に頼るのは正しいむし歯予防といえないのではないですか。
■A:むし歯予防のためには、
(1)糖分を含む食品の摂取回数を少なくする(だらだら食べたり飲んだりしない)
(2)歯みがきにより歯垢(プラーク)を取り除く
(3)フッ化物利用により歯を強くする
ことが必要となります。
これらは、むし歯に対する予防作用が異なり、いずれも大切ですので、ひとつに頼ることなく組み合わせて実施していくことがむし歯予防につながります。口の中から細菌や糖分を全てなくすことはできませんが、日頃から歯みがきや甘味制限によって、できるだけ良い環境を維持する努力は必要なことです。
■Q6:フッ化物は、本当に安全ですか。
■A:フッ化物は、自然の中に広く存在している物質で、私達の日常生活の中で飲食物と共に常に摂取しています。
日頃、飲食物から摂取しているフッ化物の量は1~3mg程度とされており、フッ化物洗口で口に残る量は0.2mgと少量であることから安全です。
しかし、どんなに安全なものでも、摂りすぎると害になります。
フッ化物の過剰摂取では、次のような中毒が報告されています。
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慢性中毒
長年、飲料水等により過量のフッ素を身体の中から摂取したとき生じます。斑状歯と骨硬化症の2つがあり、斑状歯となるのは、顎の骨の中で歯がつくられている時期に適量の2~3倍以上のフッ素を継続して摂取した場合で、骨硬化症は、適量の10倍以上のフッ素を数十年摂取し続けた場合に生じることがあります。
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急性中毒
一度に大量のフッ素を摂取したときに生じるもので、吐き気、嘔吐、腹部不快感などの症状を示します。フッ素の急性中毒量は、体重1kgあたり2mgです。
いずれにしても、適切に実施すればフッ化物洗口やフッ化物塗布において中毒を起こす可能性は極めて低いと言えます。
■Q7:洗口液を誤って飲み込んだ場合、どうしたらよいのでしょうか。
■A:フッ化物洗口液は、量的になんら問題はなく、たとえ誤って1人分全部飲み込んだ場合でも心配ありません。
たとえば、体重20kgの園児が毎日フッ化物洗口している場合、一度に25人分以上飲み込まないかぎり急性中毒は起こしませんし、また、体重30kgの生徒が週に1回フッ化物洗口をしている場合は、一度に6~7人分以上飲み込まないかぎり急性中毒の心配はありません。
急性中毒がおこるほど大量に飲み込んだ場合は飲み込んだ量に応じて対応します(表)。
表 フッ素の体重当たりの急性中毒発現量とその対応
フッ素の急性中毒量 (体重1kg当たり) |
症 状 |
対 応 |
2mg/kg以上 |
軽い胃腸症状 (吐き気・腹痛・下痢) |
・カルシウムを与える。 牛乳やアイスクリームを与えて数時間様子を見る。 ・嘔吐させる必要はない。 |
5mg/kg以上 |
胃腸症状 (吐き気・腹痛・下痢)治療・入院処置が必要 |
・病院に連れて行き、2~3時間観察する。 ・催吐剤で嘔吐を誘導し、胃を空にする。 ・経口的に可溶性カルシウムを投与 (牛乳, 5%グルコン酸カルシウムや乳酸カルシウムなど) |
15mg/kg以上 |
胃腸症状 (吐き気・腹痛・下痢) |
・緊急に入院させる。 |
※週5回法(保育所・幼稚園)のフッ化物洗口溶液5ml中のフッ化物量は1.25mg
■Q8:フッ化物の急性中毒量について、体重1kgあたりフッ化物2mgと5mgの根拠となるデータはどんなものですか。
■A:一般に、物質が発現する急性中毒量の決定は科学的に困難です。
これは、中毒実験は人を対象にはできないし、初期中毒症状は動物実験では判定のしようがないためです。
現実にはたまたま人がある物質を事故等で多量に摂取して急性中毒が発現したときの調査結果から、その中毒量を推定します。
また、どのような症状をもって中毒と判定するかが、まず問題であり、とくに軽度の症状は科学的に重要な再現性(何度やっても同じ結果がでるか)が得られず、その因果関係の判定は困難なことが多いのです。
フッ化物の中毒量については、従来、1899年に報告されたBaldwinの最低中毒量2mg/kg(体重)の推定値が用いられてきました。フッ化物摂取による急性中毒症状としては、一般に流涎、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、昏睡などが上げられていますが、これらのほとんどの症状は他の一般にみられる中毒症状と変わりがなく、フッ化物中毒であるとする決め手に乏しいのです。
そのため、現在では、1987年に報告された、Whitfordによる推定中毒量(PTD probably toxic dose)が採用されています。このPTDは、医療を必要とするはっきりした中毒症状を表す推定中毒量であり、5mg/kg(体重)以上とするもので、科学的に再現性のある数値として用いられ、米国疾病コントロールセンター(CDC center of diseases control)の支持も得ています。
(5mg/kg以下でも軽度の症状は発現することがあり、牛乳(カルシウム)の飲用を勧めることはあっても、医療の必要はない程度のもとされます。)
■Q9:フッ化物洗口をしてはいけない病気がありますか。
■A:ありません。
適切にうがいが行われる限り、身体の弱い人や障害をもっている人及び全身疾患をもっている人が特に影響を受けやすいということはありません。
また、アレルギーの原因となることもなく、骨折、ガン、神経系及び遺伝系との関連も疫学調査で否定されています。
■Q10:フッ化物が癌の原因になると聞きましたが、本当ですか。
■A:過去に「フ口リデーション(水道水のフッ化物濃度適正化)されている地域の人々は癌による死亡率が高い」という報告がありました。しかし、これは米国で調査されたデータを誤って解釈したもので完全に間違いであることが分かりました。
また、「フロリデーションされていた地域の子宮がん死亡率が高い」という報告もありましたが、これもデータの採取地域および解析に不備があり、差は確認されませんでした。
米国国立癌研究所や米国疾病コントロールセンター(CDC)を含む専門機関は、フロリデーションと癌とは無関係であるとしています。
■Q11:フッ化物洗口で歯に色が着くことはありませんか。
■A:ありません。
一般にフッ化物洗口液として用いられるフッ化ナトリウムの水溶液は、無色透明、無味無臭の溶液です。市販薬については若干薄い色、薄い味がついていますが、歯に色素が着色することはありません。たまに「フッ素を塗ったら歯が黒くなった」等の話を聞きますが、これは、乳歯の初期むし歯の「進行止め」として使われるフッ化ジアンミン銀(商品名サホライド)によるもので、フッ化物洗口液による着色ではありません。
■Q12:フッ化物洗口の必要性があるならば、学校等の集団ではなく家庭の責任において自主的に実施すればよいのではないですか。
■A:たしかに、保護者の責任で個別実施し十分な成果が上がれば理想的です。
しかし現実には問題として、各個人任せにした場合に保護者によって差が生まれます。同じ未来ある健全な子どもたちの健康に差がでてくることをどう考えるかだと思います。
家庭における予防では、継続実施することが難しく、一番の問題であるむし歯多発児、重症児の問題も解決しません。むし歯は他の疾患と違い、国民の大多数に認められ、一度罹患すると自然治癒が望めないこと、さらにむし歯の発生時期は子どもの頃がほとんどであることから、永久歯のむし歯予防に最も効果のある学童期に、できるだけすべての子ども達に対して予防する機会を平等に設けることが必要なのではないでしょうか。
そのためには、教育的・組織的・環境的・経済的支援を有し、科学的にも証明されたむし歯予防である「集団でのフッ化物洗口」を保育・教育施設で導入し、子ども達に平等な効果をもたらすことが必要です。
■Q13:WHO(世界保健機関)は、就学前(6歳未満)の子どもはフッ化物洗口をしてはいけないと言っているのですか。
■A:WHOは日本に対して言っているのではありません。
WHOの報告では、1日の総フッ素摂取量が過剰になるおそれから6歳未満の子ども達にフッ化物洗口を用いるべきでないとの見解が示されています。これは、世界の多くの国々では、フロリデーションが実施されており、そのような地域では、幼児がフッ化物洗口液の全量を誤って飲み続けた場合、フッ素の摂りすぎになるため、注意が必要になることを記したものです。
フロリデーションが行われていない日本では、4、5歳児においてもフッ化物洗口が安全に行われていることが確認されています。また、日本口腔衛生学会等の専門団体は、我が国の実状に適したフッ化物応用方法として、就学前からのフッ化物洗口法を推奨しています。なお、WHOは一貫してむし歯予防のためのフッ化物利用を推奨(勧告)しています。
■Q14:フッ化物利用に反対論があります。科学的にはどのように考えられますか。
■A:米国歯科医師会が発行している「フロリデーション・ファクツ2005」(財団法人口腔保健協会 Fluoridation facts 2005)によると、これまでの米国におけるこの60年にわたる水道水フロリデーションの歴史のなかで、これまでにだされた数多くの水道水フロリデーションに対する反対意見が、一般に認められた科学によって実証された試しは一度もない、とのことです。
次にそれらの反対意見に共通してみられる誤りのいくつかを列記します。
1.不備のあるデータをもとに反対意見が成り立っている。
2.一度否定された内容のことでも、繰り返し意見として発表する。
3.過量な場合や事故などの特殊な場合に起こる危険性を論じる。
4.実際は安全性を証明している論文であっても、その一部だけを引用して危険であるかのような主張をする。
5.癌や毒など、恐怖心を引き起こす言葉を多用する。
6.薬害や公害などと重なるような印象を与えようとする。
7.「絶対安全」など不可能な基準を持ち出して議論する。
この「絶対安全」の証明は、理論的に全く不可能なのです。フッ化物も他のいかなる物質と同様、どのような対象に対しても、どのような時、条件でも、「絶対安全」であることを立証することは理論的にも不可能なのです。一方、有害性は証明が可能です。したがって、「絶対安全」は可能な限り有害かもしれない事項を科学的に否定することによって成り立っているのです。
■Q15:フッ化物応用について学会でも賛否両論があるあいだは、「疑わしきは使用せず」の原則で実施を見合わせるべきである、という意見がありますが。
■A:わが国をはじめ国際的にも学会での学術的な賛否はありません。
また、「疑わしきは使用せず」といういい方は、刑事訴訟法の「疑わしきは罰せず」を転用したもので、たんなる語呂合わせであり、原則などというものではないのです。
しかも、現実的な適用には無理があることはすぐに分かります。反対する人が「絶対安全」を求めて議論をすると、「絶対安全」が理論的に立証不可能である以上、すべてが「疑わしき」ことになってしまうからです。むし歯予防のフッ化物応用については、安全性および効果について疑わしいところはありません。
わが国のこの分野の専門学会である日本口腔衛生学会も、2002年、「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」において、21世紀のわが国における国民の口腔保健の向上を図るため、専門学術団体として、フッ化物局所応用ならびに水道水フロリデーションを推奨するとともに、それらへの学術的支援を行うことを表明しました。
参考
・熊本県 歯の健康(外部リンク)
・日本歯科医師会 テーマパーク8020(外部リンク)
・熊本県歯科医師会 歯の豆知識(外部リンク)
・学建書院「―21世紀の健康づくりとむし歯予防―わかりやすいフッ素の応用とすすめかた」